いろとりどりのセカイ(?)
ぬるい風が、通り過ぎる。
炎天下の中俺は「あーちょっと川に行ってくるかー」と、寝起きの回ってない頭で川までやってきた自分の考えがよくわからない。
「全くどうして、俺はこんなことをしているんだか。」
近場にある寝転ぶのに丁度いい岩の上で、そうぼやく。
無意識に、何も考えずに空へ手を伸ばす。
そうしてふと、思い出す。
「薬は、飲んできてるな。うん。飲み忘れてたら家に帰んないといけないところだった。」
薬。
そう俺はこの夏、ちょっとした病気の療養のためにしばらく離れていた実家へと帰ってきた。
好仁村。
正確に言うとしばらく前に地方の吸収合併が起こった時に名前が変わったが、俺の中では今でも「好仁村」のままだ。山に囲まれ、川がある。森がある。そんな自然あふれる場所だ。温泉もあったり。近年は徐々に観光客も増えているのだとか、いないのだとか。
「暇ならちょっと手伝って欲しいことあるんだけど。どうよ?」
「なんだよ。俺は今自分の人生について真剣に考えているんだ。暇じゃない。」
「お前はそればっかりだな。たまには体を動かしてみろって。何か違ったものが見れるかもしれないだろ?」
「せやなぁ」
1人でだらけていたはずなのに、音もなく近づいてきたこいつの名前は玲須。有村玲須だ。
音もなく近づいてくることから学生の頃は「忍者」とか「退魔忍」とか何かよくわからないあだ名を付けられていたかわいそうなやつだ。うん。何をしたら「退魔忍」なんてあだ名を付けられるんだか。
「なんだよ。玲須。そんなに人手が足りのかよ。手伝ってもいいけどさ、日雇いって感じで給料くらい出してくれよ。働けなくて困ってるんだ。とにかく金がないんだよ。」
「出すから、手伝ってくれ。頼むこともちょっとした事務作業とか掃除くらいだから安心しろよ。お前に力仕事なんか任せたらいつ終わるか分かったもんじゃないしな。」
「ひどない?俺だって最近はトレーニング始めてるんだぜ?お前くらいちょろいもんよ。」
「先週それ言った後どうなったかもう忘れたんか・・・?」
「世界は今日も平和だな。」
「そうだな。」
「で、今日は何をすればいいの?具体的に言って欲しいんだけど。」
「とりあえず、妹を引っ張り出しておいてくれない?」
「了解。」
今日は本当に天気がいい。ただこれから、暑くなっていく。夏だしなぁ。
早く、秋にならないかなぁ。涼しい季節が恋しくて仕方がない。
夏の暑さがおかしな夢を見せるような。そんな気がした。
夢から覚めた自分にとっては、とても魅力的で優しい夢。そんなものを見ることになると、なんとなく思った。
「おーい、出てきてー。大好きなお兄さんが困っているよー。梨衣ちゃん?聞こえてるー?返事くらいしてほしいんだけどー。どう、アイスとか買ってきてるんだけど一緒に食べない?」
有村梨衣。俺に仕事をくれる数少ない人物。いや、学生時代からの親友だ。たぶん。その妹だ。
基本的に自室に引きこもってエッチなゲームをしていたりすることから、玲須も苦労しているんだろう。2人兄弟で生活しているのに、基本的に2人がセットでいるところはあんまり見ないような。仲が悪いわけじゃないんだろうけれど、まぁ色々あるんだろうなーってところだ。
「梨衣ちゃーん?お兄ちゃんだけじゃなくて、おれも困っちゃうんだけどー。君を部屋から出さないと俺の生活費が中々にヤバいことになるんだけどー。ちょっとだけ。ちょっとだけでいいから出てきてくれない?」
「・・・」
「梨衣ちゃーん?返事だけでも―!もしかして寝てるのかなー?起きて―!もう朝!お昼だよー!起きる時間!一緒にラジオ体操でもしよう!」
「・・・うるさい。寝てるんだから静かにして。」
「・・・はい。」
今日は機嫌がよろしくないらしい。普段はもう少し愛想がいいんだけどなあ。どうしてだろう。不思議だなぁ。
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「というわけで、まだ部屋に引きこもったままであります。玲須様。」
「うん。まあ、わかってたよ。こうなるって。」
許された。でもこの流れは最近のいつもの光景だ。
玲須がどうして僕達にここまで親身になれるのか、正直分からない。
それを聞くのは何か間違いのような気がして聞く気はない。気にはなるけれど。
「なんだよ。人の妹に欲情するなって。気持ち悪いな。」
「どうしてそうなるの。」
ひどい。とてもまじめなことを考えていたのに。他人の妹とかに欲情するのは玲須の方なのに。僕はむしろ年上の女性が好みだというのに。
「なに?小さい子に声かけたら不審者にでも間違われたの?面白いことしてるね。」
「うるさいぞ。一人でボケーっとしてる様子見たら、誰だって気になるだろ。人の善威を何だと思ってるんだ。無言で防犯ブザーを鳴らそうとするのを見たときはヒヤッとしたわ。躊躇しないんだよ。最近の子供たちって。社会の怖さを知り過ぎてる気がするんだけど、お前どう思うよ?報?」
そう、僕は報。遺愛報。名字で呼ばれるとなんか女の子みたいでモヤっとする。
それはさておき、
「そうだなあ。最近の子が賢いっていうかさ。最近の大人たちがバカなだけなんじゃないの?なんとなーくで生きてさ。何も考えずに『こういう風に生きるのが正しい』って。本当にそうだって信じて生きてるような奴ばっかりだよ?そんなことないっていうのにさ。もしそうならさ。僕はお前と出会っていないよ。絶対に。」
「何言ってんだお前?急によく分かんねえこと話始めんなよ。気持ちわりい。」
「さっきから玲須、ひどない?」
「そんなことないぞ。お前の気のせいだ。」
「なるほどー。」
そっかぁ。僕の気のせいかぁ・・・。でも気持ち悪いはひどない?突然小さい子に声かけるのと比べれば・・・。変わんねえな。どっちも気持ち悪いわ。
小さい子に声かけるやつも、突然聞いてもいないこと語り始めるやつも。同じくらいには気持ち悪いわ。これから気を付けよ。
「ところで玲須。梨衣ちゃんを部屋から出そう作戦は失敗したわけどさ。玲須は今の梨衣ちゃんのことどう思ってんの?」
「知らねえよ。『家族』だからそうしてるってだけだ。俺個人としてはもう本人の問題だろ。自分で何かやりたいことでも出来れば勝手に外に出始めるだろ。昔みたいにさ。何も心配してないよ。」
「ホントにぃ?」
「叩くぞ?お?」
「最近の君は暴力的だね・・・。昔はもっと優しさに溢れていたのに・・・。」
よよよー。割と深い付き合いになってからはすぐ叩こうとしてくる。僕はサンドバッグではないぞー。暴力はんたーい。
バシッ!
「!!??どうして僕は叩かれたんですか!?」
「叩いてほしそうな顔してたからだよ。何笑ってんだ・・・。お前急に笑うのはホント気持ち悪いから気を付けた方がいいぞ。」
僕はきっと泣いていいはず。・・・笑顔が気持ち悪いって生きていくうえで致命的すぎでは・・・?
「ところで報。梨衣のことはもういいから、次行くぞ。」
「次ぃ?まだ何かやることあったの?珍しいね。」
「お前はもう少し自分の住んでいる場所に興味を持て!イベントで観光客がそこそこ来るんだよ。・・・手伝えるか?無理なら無理で手伝わなくていいが。」
「大丈夫だよ。最近は安定してるし、薬も飲んでる。何の問題もないよ。」
「それならいくぞ。内容に関しては、道すがら教えるよ。まぁ、そんなやることはないと思うから安心しろ。」
人、どのくらいいるのかなぁ。めんどくさいことが起きなければいいんだけれど。
まぁ、大丈夫か。困ったら玲須に全部任せよう。
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続きは次回!w